VH-1
Rolling Stones
"Salt Of The Earth"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The Concert For NYC
Concert Poster
 

 

2001年9月11日 夜、テレビをつけるとニューヨークのワールド・トレード・センターに飛行機が2機突っ込んだと報じていた。テレビをつけた瞬間だったので、現実の出来事だと思えず、架空の話をしていると思っていた。他のチャンネルに回してみて、初めて悲惨な出来事が現実であることを知った。

翌朝、ニューヨークの友達やストーンズのツアー関係者の安否が知りたくてメールを出すことにした。メールは次々に返信されてきて、私の友人やお世話になっている方達は大丈夫だということがわかり少し安心した。

2001年9月25日 少し遅い昼食を摂っていると携帯電話のIモードからパソコンにメールが入ったことを知らせる黄色いランプが点滅した。黄色のランプはストーンズに関する最重要メールが送られたときにしか点滅しない色なので、急いで食事を済ませ、パソコンを立ち上げメールをチェックすることにした。メールには「10月20日、ポール・マッカートニーのMSG公演にミックが出演することになった」と書かれていた。てっきりミックのソロ・コンサートの話だと思い込んでいたので、ポール・マッカートニーのコンサートにミックが出演するという話が意外でならなかった。とりあえずYAHOO!のニュースをチェックしてみた。ポールがMSGで癌の為の慈善コンサートをするというようなことが書かれていたが、この時、"Concert For NYC"のことは全く触れられていなかった。

2001年9月27日 YAHOO!のニュースで"Concert For NYC"の概要が伝えられる。

2001年10月9日 "Concert For NYC"のチケット・オーダーフォームが送られてくる。この時既にニューヨークでもバイオ・テロがおこなわれており、妻を連れて行くことに抵抗があったが、二人でじっくりと話し合った結果、2枚のチケットをオーダーすることにした。
2001年10月17日 ニューヨークに着く。特に空港とマンハッタンに入るためのトンネルでは物々しい警備で、やはり普通ではないことを感じた。しかし、マンハッタンに入ってしまうと、州兵の姿が所々で見かけられるものの、特に厳戒態勢と言った感じではなく、街で手荷物検査などをされることも一度も無かった。私達がニューヨークに着いた夜はNHL地元チームのレンジャースが勝ったようで街は賑やかだった。少し緊張感が和らぐ。

2001年10月20日 ついにベネフィット・コンサートの当日になった。部屋からMSGが見えるホテルに宿泊していたので、朝、窓から見下ろすと既に3mくらいの間隔で警察官が会場周りを警備していた。部屋を出てMSGのゲートに向かう。当日券を求める人達が階段に並んでいて、日本からも何人かチケット無しで駆けつけてきているようだった。

長時間のコンサートなのでランチをとったあと昼寝をして、夕方起きる。MSGではエントランス前でメモラビリアを売っているのが通常なので、17時半頃、会場にコンサート・ポスターを持ち込みたくなく、ポスターを買うためだけに一度エントランス前に行った。この時すでに消防士と警察官の正装姿の人達で会場周りは埋め尽くされているような感じであった。

このぶんだと、会場に入るために相当の時間が掛かるだろうと思い、ポスターを急いで部屋に持って帰り、すぐに会場へと向かった。しかし、会場周辺に入り込む時には金属探知の検査を受けたが、会場内に入るのには全くチェックがなく、拍子抜けしてしまった。

会場に入ってステージを見ると驚くほど小さく、ストーンズが98年にMSGでおこなったコンサートのステージの2/3あるかないかぐらいだったと思う。フロア席は既に消防士、警察官そして今回のテロで家族が犠牲になった遺族達でぎっしり埋まっていた。

「世界一有名なアリーナであるMSGで、これまでに無く、これからも無い」と報じられた歴史的なコンサートの幕開けは、デヴィット・ボウイがキーボードのような薄くて小さなリズム・ボックスをステージ地べたに置いて、あぐらをかいて歌った"America"だった。

ステージはターン・テーブルのようになっており、あるミュージシャンが演奏しているときに裏でアンプやドラム・セットをセットアップし、演奏が終わればグルリと半回転させて、次のミュージシャンのセットが現れるといった感じだ。実際には、これでもセットアップが間に合わず、ミュージシャン以外の映画俳優、プロ・スポーツ選手、コメディアンやクリントン元大統領、ジュリアーニ市長などが次々にステージでスピーチなどをしてコンサートを繋げていった。映画俳優はVH-1のホームページで報じられていた人たち以外にもリチャード・ギア、レオナルド・デカプリオ、ロバート・デ・ニーロなどが出演。

ザ・フーの演奏が終わるとミックは噂されていたとおりキースと一緒にステージに登場。ミックとキース以外の編成はギタリスト2人、ベース、ドラム、キーボード、ホーン・セクション3人、バック・ボーカルの3人。コンガとコンガの場所にボーカル・マイクがセットされていたが、結局使われなかった。予定では3曲だったのかもしれない。

ニューヨークに入った時にリハーサルで"Salt Of The Earth"と"Miss You"を演っていると聞かされていたので、キースが"Salt Of The Earth"と告げても驚くことはなかったが、ついにキースのボーカルで始まる"Salt Of The Earth"を生音で聴けると思うと心の底からこみ上げてくるものがあった。

89年アトランティック・シティでのストーンズのスペシャル・コンサートでもミックとアクセルのツイン・ボーカルによる"Salt Of The Earth"が演奏されているが、比較をするとアトランティック・シティは「ゴージャスでアクセルの若さとスピード感」でグイグイと観客を引き付けていくパターンだとすると、今回のミックとキースの"Salt Of The Earth"は「クラブ・ギグ・バージョン」のような演奏で、特に前半のパートではスライド・ギター奏者がいるにも関わらず、かなり抑えぎみに演奏しており、キースのアコ・ギターとテンポで曲は進行していった。演奏し終えた後、ミックとキースが蔓延の笑みだったので、次のツアーかクラブ・ギグで"Salt Of The Earth"は演奏されるのではないだろうか?

"Salt Of The Earth"演奏後にミックが警察官の帽子をかぶっているのは、フロア席から投げ込まれたもので、ミック以外にも殆どのミュージシャン達がかぶり、最後に本人に投げ返していた。

"Miss You"演奏後、ミックはあっさりと「グッド・ナイト」と言ってステージを降りたので、コンサートのラストには登場しないと思っていたが、想像どおりミックもキースもポール・マッカートニーの"Let It Be"や"Freedom"には加わらなかった。

コンサートには遺族なども多く招待されていたが、悲しみの中おこなわれたという感じではなく、黙祷なども無く、むしろ普段のコンサートでは考えられないような笑顔と笑い声に包まれていた。ステージに上げられた子供達の何人かは涙ぐんだりもしていたが、何度も「君達のお父さんはただ亡くなったんじゃない、ニューヨークのヒーローになったんだ」と勇気づけられていた。多分日本だと死者を弔い、遺族に哀悼の念を表すコンサートになるだろうが、ここでは、今生きている人たちがいかに早く気持ちを切り替え、明日に希望が持てるような気分にさせるか、その切り替え点になるコンサートとして今日があったのだろう。だから皆本当によく笑う。

特に会場内が大爆笑になったのは、コメンテーターがフロア席の警察官達にラッパーのJay-Zが楽屋にスモークを持ち込んでいるから早く捕まえにいけとけしかけたときや、ウディー・アレンのショート・フィルム。そしてサタデー・ナイト・ライヴのオペラ・マン(アダム・サンドラー)。彼はジュリアーニ市長やラディンを題材に面白おかしく歌詞を作りオペラを歌うのだが、英語があまり分からなくても、プロジェクターにイメージ画像と英語の字幕が映し出されているのでそれで十分わかるし、会場内全体が足をばたつかせて笑っている人ばかりなので、つられてオペラ・マンが何を言っても笑えてしまった。私の隣の席の男性は涙を流しながら、引き付けを起こす寸前ほど笑って、まともに呼吸が出来ていなかった。オペラ・マン恐るべし。

クリントン元大統領は、さすがに大統領経験者だけあって、スピーチが上手く、みんなそのスピーチに引き込まれていった。彼はこのプログラムをテレビで見ているであろうラディンに語りかけていたと思う。また、リチャード・ギアは「テロへの報復のエネルギーを他に向けるべきだ」と訴えたが、拍手よりブーイングのほうがやや多かった。ニューヨークの消防士や警察官、遺族達が中心の会場なので、そのようにいえば、こうなることは彼自身にも十分に想像できたと思う。しかし自分の考えを、人気取りや周りの雰囲気に流されず言ったことは、男としてかっこいい奴だと思った。

このコンサートに行くきっかけはミックが出演することになったからだが、たとえミックとキースが出演していなくても後世に語り継がれる素晴らしいコンサートであったのは間違い無いだろう。ポールのピアノとクラプトンのギターによる"Let It Be"はミックとキースの演奏を除いて超絶物であった。




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